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リトバルスキーが語る香川再生論…「私から見れば、彼は100%右利きだ」

日本代表の10番、香川真司がドルトムントで苦しんでいる。先発には復帰できず、監督との不仲説も後を絶たない。結果、日本代表に招集された時にも、本来の力を発揮できないケースが増えている。

はたして香川は、閉塞状況をいかにして打破すべきか。日本サッカーを愛する1人として、香川を見守り続けてきたピエール・リトバルスキー(現ヴォルフスブルク・スカウト部長)に、復活のヒントを尋ねた。

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170303-00827529-number-socc今のドルトムントにはかつてのようなチームスピリットが存在しない
―ずばり香川の現状は、どうご覧になっていますか?

「香川はいろんなことを試して、必死に現状を打破しようとしているのだと思う。それはプレーだけにとどまらない。私生活でも、住むところを変えてみたり、睡眠のとり方を変えたり、酸素カプセルを購入したりしながら、なんとか状況を変えようとしている。最近は細身になった印象を受けるし、食事の仕方も変えているはずだ。しかし残念ながら、そういう努力は実っていない。出場機会を得られない状況は、なんら変わっていないのが現実だ」

―トゥヘル監督は香川を起用しない理由について、「戦術的な柔軟性の欠如」を挙げたことがあります。その単語が何を指すのかはわかりませんが、監督の信用も失っているのは明らかです。

「そう、説明としてはあまりにも漠然としている。むしろ選手を起用しない場合に、監督が口にする決まり文句だと捉えたほうがいい。そもそも本当に戦術が理由なら、具体的な指示やアドバイスができるはずだが、香川はそこまで細かな説明を受けていないのではないだろうか。

 結果、監督との溝はますます広がっていく。さらに悪いのは、出場機会を掴むためにいろんなことを試せば試すほど、負のスパイラルに入っていくことだ。実はこれこそが、今の香川と、かつてドルトムントに所属していた頃との、最大の違いかもしれない。

 かつてドルトムントにいた時の香川は、いい意味でいろんなことを考えずにのびのびとプレーしていた。動きにもキレがあり、レバンドフスキのようなチームメイトとのコンビネーションにも迷いがなく、サッカーを心から楽しんでいた。本人にしてみれば、まさに天国にでもいるような気分だったはずだ。しかし、今の香川はまさに地獄のような状況に置かれていると言っていい」

―ドルトムントでここまで苦しむとは予想外でした。ドルトムントは、香川にとって第2の故郷のようなクラブです。マンチェスター・ユナイテッドを退団して戻ってきた際には、かなりほっとしたでしょうし、選手として再スタートできると確信していたはずです。

「かつてのチームに復帰するというのは、一般的に思われているほど楽な作業ではない。すぐに結果が出せればいいが、そうならない場合には、なまじ昔のいいイメージがあることが、逆に命取りになってしまう。

 私は今の香川とちょうど同じように、27歳の時にフランスのラシン・パリからFCケルンに戻っている。これは大きな賭けだったが、幸いにして私の場合は、ドイツ人のチームメイトが数多く残っていてサポートしてくれた。しかもチームの誰もが、私がクラブに戻ることを望んでいた。

 だが、香川がドルトムントに戻ったケースは微妙に違う。たしかに香川が最初にドルトムントにいた頃は、外国人選手が多くても、一種のチームスピリットがあった。こういう家族的な雰囲気の有無は、特に日本人選手にとって重要になる。

 しかし、今のドルトムントにはかつてのようなチームスピリットが存在しない。選手や監督も入れ替わってしまったからだ。当然、評価の基準はピッチ上での数字だけになってしまうし、結果が出なければ、チーム側のサポートも受けられなくなる。それが香川の現状だ。香川がいい意味でもっとエゴイスティックな人間で、精神的に開き直ることができるようなタイプなら、話は違っていたかもしれないがね」パスを受けた時の反応でわかる不調の原因
―香川は生真面目ですからね。エリック・カントナのようにはなれない。

「さらに深刻なのは、香川自身が単純に調子を落としてしまっている点だ。

 今の彼はサッカー選手としてステップアップしていくというよりも、以前と同じようなプレーが今でもできるのだと、証明することが求められている。

 だが実際にはそれもままならないし、トップレベルのパフォーマンスを発揮する場面は極めて少ない。誤解してほしくないのだが、私は香川にポテンシャルがないといっているわけではない。彼が高い才能を持っていることは折り紙付きだし、かつてドルトムントにいた頃は、まさに見事なプレーを発揮していた。私自身、香川真司という選手の大ファンだった。

 ただし少なくとも現状はそうではない。しかも出場機会を与えられないため、復調の糸口さえつかめない。正直、ドルトムントでこのままやっていくのはかなり難しいと言わざるを得ない」

―監督との信頼関係はともかく、技術的に見た場合、そこまで調子を落としてしまった原因はどこにあるのでしょうか? 

「理由は明らかだ。香川はまだ若いし、体力の低下が原因にはなり得ない。大きな怪我をしているわけでもないのだから、こういうプレーすればいいというイメージを、完全に見失っていることが最大の原因だという結論になる。

 それはパスを受けた時の反応からもわかる。

 ボールを持った場合、選手が取り得るオプションは3つしかない。前に運ぶか、後ろに戻すか、横にさばくかだ。セレッソ時代や、かつてドルトムントにいた頃の香川は、ファーストタッチで必ず前を向き、相手にとって危険なプレーを仕掛けてきた。

 しかし今はどうだろう。ファーストタッチでは、バックパスかサイドパスを選ぶことが多い。日本代表の試合でもしかり。香川は明らかに自信をなくしているし、プレーの方向性自体を把握しかねている」

―現状を打破するために、プレースタイルを変えるというオプションは? 

「一般の人たちは、香川ほどの選手であれば、自分で考えてプレースタイルを変えていけるのではないかと思うかもしれない。

 だがプレースタイルを変えるというのは、どんな選手にとっても相当の勇気が求められる。さらに言うなら、どこをどう変えていけばいいかを判断するためにこそ『ベース』、つまり基本となるプレーのイメージが必要になる。しかし今の香川は、そのベース自体を見失っている。こういう状況は本当に厄介だ」「香川は100%、右足が利き足の選手だ」
―チーム側の助言は得られないのでしょうか? 

「本来ならば、監督やチームメイトが手助けしなければならないが、クラブ側のサポートが得られない以上、あえて厳しい意見を言ってくれる人間を個人的に探して、自力でプレーを分析していかなければならない。

 しかし香川の場合は、そういうアドバイスをしてくれる人間が周りに少ないような印象を受ける。本来であれば、テクニカルな面で細かなアドバイスを与えることができるはずなんだ」

―細かなアドバイスとは?

「香川は私の目から見れば、100%、右足が利き足の選手だ。この印象はセレッソ時代から一貫して変わらない。

 しかし最近の香川は、意図的に左足も使うようにしている。ボールを運んでいく時にも、右足のインサイドを使うのではなく、わざわざ左足のアウト側を使ったりする。私にはその理由がわからない。

 私もやはり利き足が右で、左足もそれなりにうまく使える選手だったが、あえて左足に磨きをかけようとは思わなかった。ボールを奪われないようにするためには、やはり右足でプレーしたほうがいいからだ。

 もちろん両足を使いこなせるに越したことはない。だが真の意味で、両足を同じように使いこなせる選手など、サッカー界ではごく一握りだ。香川は、自分は昔から両足を使うことができたと主張するかもしれないが、こういう要素も、『迷い』に拍車をかけているような気がする」

―試合の統計データなどは、ヒントにならないのでしょうか?

「残念ながら、今の香川にとっては参考にならないと思う。香川自身もデータを分析したり、試合の映像をチェックしたりしているはずだが、ポジティブな材料がなにも得られないからだ。

 一例を挙げよう。ブンデスリーガの前半戦。香川は7試合に出場している。うち先発は4試合だが、ゴール数は0でアシストが1。パス成功率は88%あるが、普通に考えれば、復調するためのヒントにはおよそなり得ない。むしろデータや映像を見れば見るほど迷い、どうプレーすればいいのかがわからなくなるというのが実際のところではないだろうか」

―では、どうすれば閉塞状況を打破できるのでしょうか? 

「一番いいのは、自分の原点に立ち返ることだと思う。

 たとえばセレッソで歩み始めた頃の監督や、昔所属していたクラブのコーチと話をしたりするのもひとつの手だろう。

 だが、なにより重要なのは自分の気持ちに向き合うこと、自分はこれからどうしていきたいのか、自分にとって一番大切なものは何かというテーマに、しっかり向き合うことだ。

 重要なのは、有名なクラブに名を連ねているという満足感やプライドなのか。それとも毎週末、試合に先発して、サッカーを存分に楽しみながら、一人の選手として少しずつ、レベルアップを目指していくことなのか。再び輝きを取り戻したいなら、内面に向き合う作業は不可欠だ」香川のような10番が欲しいチームは無数にある
―答えは自ずと明らかだと思います。

「そう。本気で現状を打破したいなら、出場機会を増やせる環境を作り出していくしかない。具体的に言えば、トップレベルのクラブにこだわらず、ブンデスリーガの中堅以下のクラブや、場合によっては2部のクラブに移籍することを視野に入れてもいいのではないだろうか」

―それぐらいの思い切った決断が必要だと。

「むろん2部のクラブに移籍するというのは極論だ。ほとんどの人は、そんな選択はあり得ないと拒絶反応を示すだろうし、香川自身のプライドも大きく傷つく形になるだろう。

 だが、これはプライドを捨てるということではない。サッカー選手としてのプライドをどこに見出し、何に優先順位を置くかという話だ。香川が真の意味でキャリアメイクを考えるなら、クラブの格を落としても、コンスタントに試合に出られるようにしていくのはきわめて重要だと思う」

―ドイツ以外のクラブに移籍するというようなオプションは?

「オランダやベルギーのクラブは戦術的なプレーをするし、リーグ全体としても、汚いプレーやフィジカルな要素はそれほど多くない。試合のレベルが多少落ちても、試合勘を取り戻し、本来のスタイルをもう一度確立していく上では、好都合かもしれない。

 とはいえ上位のクラブでは、やはり厳しいポジション争いが待ち構えている。スペインにしても、名のあるクラブにこだわるのは現実的ではない。

 典型的な例が清武弘嗣だ。彼はすばらしい才能の持ち主だし、サッカーにも実に真剣に取り組んできた。そして、さらなるステップアップを図るべく、セビージャに移籍した。この判断も間違っていない。セビージャは伝統と格式のあるクラブで、優秀な選手も揃っている。スタジアムも見事だ。

 しかし、その分だけポジション争いは厳しくなってしまう。本人がいかに好調を維持していても、外的な要因で出場機会を与えられなくなるケースもある。

 ならば香川に関しても、ドイツの別のクラブで、活路を見出していったほうがいいのではないだろうか」

―仮に下位のクラブにいくとして、しっくりくるチームは見つかるでしょうか? 香川はトップ下でチャンスメイクをする古典的な10番タイプではなく、スモールスペースを巧みに突いていく、新しい世代の10番です。香川の才能を活かせるクラブが、ブンデスリーガの下位のチームや、ドイツの2部リーグにあるのでしょうか?

「その点については、まったく心配していない。

 たしかにJリーグの場合は、多くのチームが似たような戦術を採用しているが、ブンデスリーガは戦術的な多様性にあふれているし、新たな戦術でアドバンテージを確立しようとしているクラブが複数ある。

 事実、そういうクラブのスカウトの間では、香川の評価はかなり高い。

 今でこそ自らのプレースタイルを見失っているが、本来の香川は、トップ下のポジションからチャンスメイクをするのはもちろん、サイドから相手を崩したり、バイタルエリアの狭いスペースにボールを呼び込み、決定的な仕事をすることもできる選手だ。こういう戦術的な柔軟性や、プレーの枠の広さは大きな魅力の1つになっている。

 さらに言うなら、ドイツのクラブ関係者の中には、まさに香川のようなプレーができる10番が欲しいと口にする人間もいる。だから香川は、もっと自分に自信を持っていいんだ。時間をかけて試合勘を取り戻していき、本来のポテンシャルさえ発揮できれば、ブンデスリーガの1部でも2部でも、必ず再び活躍できるようになる」香川がサッカーに本当に求めるものは何なのか
―その意味でも、出場機会が得られるクラブに移るべきだと。

「真剣に移籍を考えるなら、香川自身も戦略的に動いていく必要がある。自分のプレースタイルがチーム戦術に合うか否かという視点からだけではなく、攻撃の新たな形を模索しているクラブはないか、テコ入れを図っているところはないかという視点で、リサーチしていくのも有効だと思う。

 攻撃陣の人材難を抱えているようなクラブに移籍すれば、監督は香川を軸に戦術を構築していこうとする。そうなればしめたものだ。香川はある意味で、自分の思い通りにチームを作っていけるようになる。そのためにも、どのタイミングで、どこに移籍するかを最高の形で見極める必要がある」

―次の一歩をどう踏み出すかは、香川真司という選手にとって、今後のキャリアを大きく左右する決断になります。

「そう。もちろん契約金の問題、クラブ側との関係、日本のファンやメディアの反応、自分の年齢、そして日本代表の招集など、考えなければならない問題はたくさんある。なにより香川自身、プライドや優先順位の問題と折り合いをつけなければならない。

 しかし単純な話、香川は1人のサッカー選手としてもっと試合に出たい、サッカーを楽しみたいと思っているはずだ。

 攻撃的な選手には、とりわけナルシストが多い。たくさんの観衆が見守る中で、勇気を出して相手に挑み、いいプレーができた瞬間にこそ、無上の喜びを感じるという点では、子供のようなところもある。私自身、現役時代はそういうタイプだった。ましてや香川は計算高いタイプではないだけに、なおさらプレーの喜びを素直に感じたいという気持ちは強いだろう。

 おそらく香川の場合は、こういう無邪気さ、ひたむきにサッカーを愛する純粋な気持ちこそが、現状を打破する鍵になるのではないだろうか。

 その気持ちを無駄にしないためにも、まずは自分が置かれた現状を冷徹に見極める必要がある。そして自分が、サッカーに本当に求めるものは何なのか、今、何をしなければならないのかを考えていく。私は香川の復活を心から願っているが、すべてはそこから始まるはずだ」 ドルトムントは現地時間28日にドイツ3部シュポルトフロインデのホームで対戦する予定だったが、大雪による悪天候とピッチ不良のため試合が延期。延期された試合は3月14日に開催される見通しとなっている。
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